Stories日本の美をつくる

02無機材

無機材が魅せる
壁紙のテクスチャー[富士工業]

近年、北陸新幹線の延伸区間として注目を集める福井県。「モノづくりの街」としても知られるこの地域で、天然素材とリサイクル素材の特徴を生かした意匠性の高い壁紙を製造している富士工業さんに、その魅力について語っていただきました。
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観光地としての整備が進みつつある、福井市の街並み。
近年はホテル建設が続いていると言います。

天然素材やリサイクル素材の
独自性のある豊かな表現

2024年3月、金沢〜敦賀の延伸区間が開業される北陸新幹線。東京都内から福井県まで乗り換えなしの最短2時間51分で結ばれるようになることから、現在県内では有名観光地の整備が着々と進められています。

その一方、近年特に国内外から注目を集めているのが、福井県の「モノづくりの街」としての表情。日本製の約96%が生産されるという眼鏡フレームや、奈良時代から地域で生産されていたと言われる繊維のほか、漆器、和紙、刃物、箪笥、陶器といった伝統工芸品の産地としても有名です。特に鯖江市、越前市、越前町がある丹南エリアは、半径10キロメートル圏内にこれらの7つの地場産業が集まっている地域としても知られています。
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福井駅から車で南方面に15分。
北陸自動車道のすぐそばに建っている、富士工業さんの本社。

そんなモノづくりの街・福井県で、自然素材やリサイクル材料を使用した壁紙をつくり続けているのが富士工業さん。素材系壁紙専業メーカーとして1960年に設立し、元々小学校だったという歴史ある建物やメインラインがある旧鉄工所の建物を活用しながら、日々国内外向けの壁紙製造を行っています。代表取締役社長の南光雅仁さんは自社の歴史をこのように説明します。

「かつての日本の住宅では、天井に『蛭石』という天然素材が使われることが大半で、素材そのものを天井に吹き付けたり、もしくはシート状にしたものを貼り付けたりしていました。弊社は、後者の天井材を製造するメーカーとして創業。その後、蛭石を用いたシートの加工技術を生かし、手加工から機械化へと進化を経ながら、さまざまな壁紙の製造・販売を行うようになっていきました」
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富士工業の代表取締役社長・南光雅仁さん。
無機材の特徴を生かした壁紙開発に取り組んでいます。

そもそも「蛭石」とは、別名「バーミキュライト」と言われる天然鉱物のこと。黒雲母や金雲母が熱水の作用や風化によって変質して生まれ、急激に熱すると蛭のように膨張することからその名がつけられたと言われています。焼成したものは非常に軽く、空気を多く含み、耐火性や保水性に優れているという長所を持つことから、吸音・断熱用の建材や、園芸用土などに利用されています。

「富士工業では、南アフリカ産の蛭石が粉砕、焼成発砲された状態で購入し、再粉砕、3種類の大きさに選別して、それぞれ壁紙の素材として利用しています。糊を塗布した紙に独自の輝きを持つ蛭石を振り撒き、その上にさらに樹脂でコーティングすることで、凸凹感を生かした豊かな表情の壁紙をつくり出しています」
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焼成発砲された蛭石は、素材の美しく軽い上に、
耐火性や保湿性、吸音性などにも優れています。

蛭石以外にも、大理石、パルプ、おがくず、もみ殻、再生ガラスビーズ、クッション材の端材など、さまざまな素材を壁紙に使用する点も富士工業さんの特徴です。

「壁紙の開発では、素材そのものが生み出す空気感、例えば、柔らかい空気感を生み出すパルプチップ、硬い空気感を生み出す大理石、キラキラ感を生み出すガラスビーズなど素材の個性を生かすことを大切にしています。また、素材が併せ持つ凹凸感、珪藻土が生み出すマット感、パールの光沢感など、さまざまな素材の特性や形状を組み合わせながら試行錯誤しています。時と場合によっては、素材の良さをさらに引き出すために、光を反射するフィルムなどのフェイク素材も混ぜていくこともあります。そうやって『どのように壁を見せたいのか』というイメージと素材のバランスを考えながら、壁紙の表情をデザインしていきます」
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富士工業では蛭石を再粉砕し、大きさに分けて選別。
デザインに合わせてサイズを使い分けます。

これらの中でも、もみ殻、おがくず、クッション材の端材といった素材は、元々不用物として廃棄されていたもの。

「例えば、もみ殻には約15〜20%のシリカ(二酸化ケイ酸)が含まれています。このもみ殻シリカは高温で焼却すると結晶化し、焼却炉の運転に問題を生じさせたり、人体に悪影響を及ぼしたりするため、全国の農協では廃棄処理していることが一般的です。そこで、弊社では、シリカごと粉砕した福井県産のもみ殻を再利用。おがくずを混ぜ込んだ材料を使い、テクスチャー感のある個性的な壁紙を製造しています」

その他、車などの緩衝材として使用されるオレフィンブロックの端材を粉砕したものなども有効活用し、壁紙へのアップサイクルを実現。また、壁紙の裏打紙に再生紙を利用したり、リフォームの際に下地を傷めがたく廃材の削減が可能な「フリース壁紙」を商品化するなど、環境負荷の低減を積極的に目指していると南光さんは説明します。
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リサイクル素材として活用しているオレフィンブロックは、
元々車などのクッション材だったもの。

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素材の「個性」がもたらす、
メリットとデメリット

「光との調和により個性あふれる空間を演出する壁紙」をメインコンセプトとしたブランド「ACCENT by Wallcoverings」を展開している富士工業さん。商品開発を行う中で特に重要視しているのが、光沢感と凹凸感のバランスです。

「弊社の壁紙は、光源(太陽光や照明)や立ち位置によって変わる、さまざまな光沢感や凹凸が生み出す陰影など、まったく異なる表情を楽しむことができます。そのため、使用される空間をイメージしながら、素材の特徴や凹凸感を考慮して、トップコートに配合するパールの量を調整しています。また、ガラスビーズなどの素材の場合、同じ大きさのものを使用してしまうと光が一定の角度にしか反射しないため、どの角度から見ても輝きが生まれるように、あえて形の違うビーズを混ぜて使用しています」

一方、「あまりに壁紙が光りすぎていては、空間がどうしても下品に見えてしまう」と南光さん。それを避けるために、「いかにさりげなく、上品に光るか」というところを目指すようにしていると言います。
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トップコートの調合は、非常に繊細な工程。
素材の個性に合わせて、配合を変える必要があります。

また、壁紙製造において、光と同様に重要な要素となるのが色彩です。特に「素材の色合いの見極めには、非常に神経を使う」と南光さんは説明します。

「色味が強い素材を使用する場合、トップコートを塗布してもどうしても地の色が勝ってしまうということが起こります。そのような素材を使用するときは、素材の色味を打ち消す色を混ぜたり、素材の色味を考慮した配色を提案させていただきます。また、壁紙というのは、お客様が事前にサンプルで色味の確認をされていますので、最終製品の色ブレを可能な限りなくしていく必要があります。ただ、私たちが使用しているのは、自然素材やリサイクル素材。毎回同じ工程、同じスペックで製造を行ったとしても、素材一つひとつの色合いが違うため、同じ仕上がりにはなりません。どうしても日々の生産における調整が不可欠です」
とはいえ、これらの壁紙は、たとえ調整を重ねたとしても、塩化ビニル製の壁紙のような「安定・均一の製品」にすることは難しいという宿命があります。

「弊社が製造する壁紙は、素材感や光沢感、立体感などを通じて独特の風合いやさまざまな表情の変化を生み出すという特徴があります。また、人にも環境にもやさしいというメリットも持ち合わせています。近年はそのような価値が評価され、海外ブランドでの採用も増えています。しかし、日本国内の場合は、施工性が良く、安定・均一の製品を大量生産できる塩ビ製のシェアが圧倒的。自然素材やリサイクル素材の壁紙が持つ意匠的な魅力よりも、施工性やメンテナンス性などが重要視されることがその一因です」
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特に施工性は、富士工業さんだけではなく、織物壁紙、和紙壁紙なども含め非樹脂系壁紙全体の課題となっています。非樹脂系壁紙を普及していくためにも、「国内に向けてその意匠的な魅力を伝えていきながらも、その一方で施工面での課題を解決していくことも重要だ」と南光さんは言います。

「現在の日本は、塩ビ製の壁紙が99%。施工を行うクロス職人さんとしては、塩ビ製を張ることさえできれば職に困らないという現状があります。また、施工の工期が限られた中での作業となれば、施工に配慮が必要な非樹脂系壁紙ではなく、慣れ親しんだ塩ビ製を使用した方が効率的に良いということもあります。現在、非樹脂系壁紙の施工講習会を定期的に行っていますが、参加していただいた職人さんは、ほとんど非樹脂系の壁紙を張ったことがないというのが実情です。張ったことがないと「張れない」ということになってしまいます。やはり施工面の課題は、避けては通れないのが実情です。そのためにも、まずはクロス職人さんに非樹脂系壁紙を取り扱う機会を提供することが不可欠。もちろん非樹脂系壁紙の施工講習会も大切ですが、実際の仕事を通して多くの職人さんに施工していただくことが最も重要です。そういう意味では、弊社の製品は、非樹脂系壁紙の中では、比較的安価な製品が多く、施工性のハードルも低いので、取り組みやすいのではと思っています」
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焼却が難しいもみ殻もシリカごと粉砕したものを取り寄せ、
リサイクル素材として使用しています。

その一方で、南光さんは「新たな光も少しずつ見えてきている」とも説明します。そのきっかけは、昨今のSGDsの広がりにより環境面への関心が高まり、リサイクル材を使用した富士工業さんのもみ殻、クッション材の端材、ガラスビーズなどの壁紙に注目が集まるようになったこと。

「エコ素材、リサイクル材、自然素材などが時流に乗り、また壁紙に対する興味も少しずつ若い世代に広がりつつあり、壁紙を選べる賃貸なども増え続けています。SNSを通じて、そうした情報発信が増えることによりインテリアに興味を持ち、その価値を共有し合う若い世代の人たちが増えてきています。そのような人たちが将来的に家を購入しようとしたとき、意匠性の高い壁紙の市場が広がっていくのではないでしょうか」
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施工の課題を解決していくには、
非樹脂系壁紙のシェアを伸ばすことが何よりも重要、と南光氏。

「そのようなカルチャーに私たちの壁紙の魅力を訴求していくためにも、環境面を考慮したモノづくりは今後も徹底していきたい。また、自然素材やリサイクル素材が持つ独自のテクスチャー、それらが生み出す意匠性を駆使しながら、新しい表現も模索していきたい」と南光さん。

「まずは多様なデザインが普及している海外市場で新しいチャレンジに取り組みながら、国内製品にもその流れを持ち込んだ商品展開を行えればと期待しています。やはり弊社はメーカーなので、モノづくりから壁紙業界全体が変わっていくきっかけづくりができればと考えています」
SDGs
織物
メタリック
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